Shinkyouchi

随想音

ノスタルジア

中学からの帰り道、バスに乗って小田急線の最寄り駅に着いたら、地元の駅まで数駅各停に乗る。いつも通りの夕方の光景、17時半を過ぎそろそろ暗くなって来た。電車内は自分を含めた帰宅する学生で少し混雑している。しばらくして電灯が付き始めた地元駅のホームに降り、ぞろぞろと人の流れに沿って階段を登った。

その中学生の目線から後姿の俯瞰図に移動して、一体どんな曲にしたらいいものか考えた。目の前のパソコンのモニターには、まだ何のデータも打ち込んでいないシーケンサーの画面が映っている。二十年以上前の感情をどうやって再現するのか。そこで当時聞いていた曲を聞いてみることにした。

この時代私はハードロックにハマっていた。スラッシュメタルグラインドコアへと向かう前はそんな普通の中学生だった。バンドの練習を終えて学校から帰る時間はウォークマンで好きなバンドの曲を聞いた。電車内では出来もしない速弾きを"いかにも自分弾けます"風の指エアギターで披露した。そしてバラード系の曲になるとまるで自分がそのPVの主役にでもなった気分に浸っていた。エアロスミスのWhat It Takes、ポイズンのEvery Rose Has Its Thornとか。学校帰りのこの時間が本当に好きだった。

人の流れにそって駅の改札に向かう階段を登る制服姿の中学生。先ほどの回想に戻った。夕方の帰宅ラッシュ時だから前も後ろも人で埋まっていて仕方なく一歩一歩ゆっくり進む。ちょっと疲れているのか下を向いている。前の人にぶつからないようにリズムを合わせて階段を登り切ると、定期券を取り出して駅員に見せ改札を抜けた。その時だった。誰かが近づいてきて私の手を引いた。

「行こう」

一瞬驚いたが誰だかわかると頬が緩んだ。当時付き合っていた別の学校に通う地元の彼女だった。その日待ち合わせの約束はしていなかった。いつ来るともわからないのに学校帰りの自分を待っていてくれたのだった。当時はお互い携帯電話なんて持っていなかったから、連絡といえば家に電話するぐらいしか方法は無かった。一体何分待っていたんだろう、いや何時間。それは傍目にはなんてことない日常の一コマかもしれないが、中学生の自分はこんな嬉しいことってあるのかなと思った。

帰り道、出来るだけ長く話したくて自転車を押しながら二人で歩いた。既に日は落ちて暗くなっている。自分の家のほうが駅から少し近かった。だから「大丈夫だよ」って遠慮するのもわかっているけど、「送るよ」と言って彼女の家まで送った。

夜こっそり家から抜け出して二人の母校である小学校の校庭のブランコで話をした。自分たち以外誰もいないグランドの上の夜空は、記憶の中では星で埋まっていた。

ブランコに並んだ二人を見つめる目線はどんどんと夜空に向かい上昇する。やがてパソコンのモニターを飛び出して今度は目の前にたくさんのデータを書き込んだシーケンスウィンドウが見えている。曲が完成した。キラキラと輝くように作った。中学生の自分が改札を出てから見たあの世界。

人生というのはそれぞれが主役であって人の数だけ映画のような瞬間があるんだと思う。美化された記憶が残っていくのもよくわかっている。でも別にそれで良いんじゃないかな。それが改札なのか、学校なのか、公園なのか場所も時間も人それぞれだろうけど。とにかくそんな瞬間を音楽にしたかったのでノスタルジアというタイトルにした。正直書いていて赤面しそうだが、十代の初恋というのは今でも変わらずそういうものだった。

 

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